静岡県浜松市のパーソンセンタードケアを目指す社会福祉法人ほなみ会が運営する特別養護老人ホーム「南風」です。

南風ブログ

本の紹介:『この気もち 伝えたい』

いま、私の手元に、伊藤守著『この気もち、伝えたい』(出版社:ディスカヴァー)という小さな本があります。
書店の児童コーナーに並べられていても違和感のないような装丁で、表紙に赤いボールを抱えた子どもが描かれているかわいい本です。
ページをめくると、一頁一頁に、私たちの普段のコミュニケーションをイメージしたかのような、子どもたちがボールを投げあっている絵があり、そのとなりに数行の短い文章が添えられています。

たったそれだけなのに、この本はとても大切なことを教えてくれます。
分厚いコミュニケーションの専門書を読んでも頭に入らなかったことが、無邪気な子どもたちがキャッチボールをしている絵と、詩のような簡潔な文章を味わうだけで理解できてきます。まるで私たちと著者がすてきなコミュニケーションを楽しんでいるかのように、一つひとつの言葉がすとんと心のなかに落ちてきます。

ふだん私たちは他の人びとと心を通わせたいと思っています。それなのに、コミュニケーションをとおして苦さばかりを味わいつづけています。
だから、人と接するのはもうこりごりだと思っています。この本は、そんな私たちに勇気と希望を与えてくれます。

ずっと以前、私はたまたまこの本を読んで感動し、その後、誰かに貸し出したまま忘れてしまっていました。そして最近、南風の職員がコミュニケーションについて勉強したいと言ってきたとき、とっさにこの本を思い出し、みんなに読んでもらいました。
すると職員の多くが、いままで自分が何に悩んでいたのかはっきり分かったと感想を述べてくれたのです。
この80頁足らずの’絵本’によって、コミュニケーションは難しいものだと決め込んでいた職員たちが自分自身を再発見していったのです。

著者は、コミュニケーションはキャッチボールだと言っています(以下は同書からの引用)。

コミュニケーションが
いっしょにはじめるものであるというのは、
幻想です。
はじめるのは、
いつも、どちらか一方。
あなたがボールを投げることからはじまります。

でも、
じぶんから投げるより、
むこうからくるのを待っていたい。
なぜって、
じぶんから投げて、
無視されると、悲しいから ・・・

著者は書いています ―

「自分からボールを投げるには勇気がいります。
拒絶されるかもしれないし、ボールを他の人に渡されてしまうこともあります・・・
それでも、よーく聴いて、相手の言いたいことをそのまんまに理解すること。
それが’受け入れ’です・・・
そして’受け入れ’があれば、違う考え、違う趣味、違う感じ方をもっていたとしても、いっしょにいれます」

著者の言葉を借りれば、私たちの誰もが「この気もち、伝えたい」と思っています。
また誰もが、「きみの気もち、聞いてみたい」と思っています。そして、それがコミュニケーションのはじまりなのです。

このように、この本にはコミュニケーションの基本が書かれています。
他の専門書とは多少語り口が違っていますが、無駄のないシンプルな文章で語られる大切なポイントが、頭ではなく、私たちの心に沁みてきます。

もしみなさまが職場の人間関係で悩んでいらっしゃるのでしたら、まずあなた自身がこの本を手にとり、つぎに仲間に読んでもらうことをお勧めします。
自分自身と仲間に対して、きっとやさしい気持ちになれるでしょう。

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