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2010 Apr 23

詩集『すこやかの光景』より 2

          記憶
                                        河村靖子

     川で洗濯していた時 四歳の娘が
     堤防の 黄色い花をとってくれとせがんだ

     山程の洗濯物と
     高い所でヒラヒラ咲いている花
     ダメだと怒ったら ワーワー泣いた

     「あんとき花をとってやらなんだで
     今も怒っているだかやあ」
     九十歳過ぎた老女は つぶやく

     「もう忘れてると思うわ」
     と答えると
     「そんなことありやせん
     こんな年寄りの婆が
     ちゃーんと覚えているだで」
     と キッと眉を上げた

     ふるえた声が
     相談室の壁へ 吸い込まれていく


 娘さんは相談室でこのエピソードを聞いて、「ぜんぜん覚えていないわ」と言いました。面会に来られないのも、仕事が忙しいからです。それでも老女は、しっかり、よーく覚えているのです。「母の心の痛み」は、遠い昔の事ではなく、老いた今、浮かび上がるのです。いいようのない淋しさと悔恨と共に、くっきりと・・・。 (河村)

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